NHK広島放送局「1945ひろしまタイムライン」のツイートについて
もし75年前にSNSがあったらという企画で行われているNHK「1945ひろしまタイムライン」が問題になっています。これは実在する人物の日記をもとに広島ゆかりの市民が短文を創作し、ツイッターで発信するというものです。
企画趣旨は「被爆体験の継承」で、方法は『75年前の日記本文にもとづき、現代の人たちが「日記を書いた人が当時何を見て、何を聞き、何を感じたのか?」を想像し伝える』というやりかたです。
“新聞記者の一郎さん”“主婦のやすこさん”“中学校1年生のシュンちゃん”の3人がツイートの発信者です。本文は広島ゆかりの市民11人がそれぞれ分かれて、取材や聞き取りをしながら考えているようで内容は創作です。ツイッターというSNSを使い、被爆前から被爆当日、被爆後の様子をまるでリアルタイムに起こっているかのようにツイートするこの企画は、当初から話題となりました。フォロワー数はそれぞれ12万人以上おり、中でも一番多いフォロワー数14万人をもつのがシュンさんです。このシュンさんの6月16日と8月20日のツイートに朝鮮人についての記述があり、これが差別の助長であると問題になっているのです。
『朝鮮人の奴らは「この戦争はすぐに終わるヨ」「日本は負けるヨ」と平気で言い放つ。
思わずかっとなり、怒りに任せて言い返そうとしたが、多勢に無勢。しかも相手が朝鮮人では返す言葉が見つからない。奥歯を噛みしめた。6月15日』
『「俺たちは戦勝国民だ!敗戦国は出て行け!」圧倒的な威力と迫力。怒鳴りながら超満員の列車の窓という窓を叩き割っていくそして、なんと座っていた先客を放り出し、割れた窓から仲間の全員がなだれ込んできた!8月20日』
『あまりのやるせなさに、涙が止まらない。負けた復員兵は同じ日本人を突き飛ばし、戦勝国民の一団は乗客を窓から放り投げた 誰も抵抗出来ない。悔しい…!8月20日』
すでに多くの方々が新聞やネットでこの問題について語っておられますが、私も当ブログで取り上げることにしました。なぜなら在韓被爆者や在日コリアンの方々と関わりを持つ者の一人として、日本人の一人として看過できないと思ったからです。いうまでもなく差別の問題は差別する側にあり、これは日本人の問題だからです。シュンさんのこのツイートを読む限りヘイトスピーチに近いと感じました。
日本で2016年5月に成立した「ヘイトスピーチ解消法」では
「専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(以下この条において「本邦外出身者」という。)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命,身体,自由,名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど,本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として,本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」
(法務省HP http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00108.html)
と定義されています。
問題になったシュンさんのツイートは、本邦外出身者つまり朝鮮半島出身者およびルーツを持つ人を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動に近いのではないかと思います。ツイートを考えた人たちは「在日コリアンの人たちを地域社会から排除するなんて思っていない。まして煽動しようとも考えていない」と思っているかもしれません。しかし以下の理由から差別的な行動、煽動を誘発する可能性があると思えます。
1・ツイッターという公共の場で発表することから起こること
SNSの一つであるツイッターは多様な意見を持つ人々が不特定多数の人に向けて自分の思いや意見などを発信し共有するインターネットにおける一つの社会です。ご存じのようにSNSにもルールがあり、ツイッター社の規定では【Twitterのポリシー:暴言や脅迫、差別的言動: 人種、民族、出身地、社会的地位、性的指向、性別、性同一性、信仰している宗教、年齢、障碍、深刻な疾患を理由とした他者への暴力行為、直接的な攻撃行為、脅迫行為を助長する投稿を禁じます。】とあります。
当時の気持ちになったとしてもツイッターという手段を使うのですから、SNSを利用するにあたって現代のルールは当てはまります。「シュンさんならこう思ったのではないかと想像して書きました」「実際に話を聞いて書きました」というだけでは済まされないと思います。
シュンさんのツイート内容が民族を理由とした他者への脅迫行為を助長する投稿だと思うのは、シュンさん(実質は現代の人ですが)のツイートの文章は朝鮮人に対して良い感情で書いているとは思えず、むしろ嫌な存在という印象を与えるからです。なぜ朝鮮人と書いたのでしょうか。朝鮮人という言葉を広島県人と置き換えて読んでみてください。どう感じるでしょうか。もし同じ日本人ならわざわざ広島県人と書くでしょうか。朝鮮人と区別する言い方をする必要があったのでしょうか。このツイートで「当時の朝鮮人は暴力的だった」という印象を与えてしまうのではないでしょうか。
このツイートによって日頃から在日コリアンを攻撃している人たちの在日コリアンへの憎悪の増幅、助長につながり、実際に在日コリアンに危険行為が及んでしまう恐れをはらんでくると思います。さらに拡散により朝鮮人に対してネガティブなイメージが付き、社会的な偏見や差別意識の助長につながっていく可能性を否定することは難しいと思います。
シュンさんのツイートには多いもので3100もの「いいね」がついており、数多くのリツイートつまり拡散がされています。今もシュンさんのフォロワー14万人がシュンさんの言葉を目にします。実際にツイートのコメント欄には朝鮮人差別と思われる内容のものも散見します。これは在日コリアンへの偏見、差別的な行動、煽動を誘発する可能性が広がり、継続している状況といえます。拡散している人も「いいね」を押した人も偏見や差別の助長をしているという意識がなく行っていたとしても、民族を理由とした他者への脅迫行為を助長する投稿と同じになってしまいます。
2・NHKの企画から起こること
NHK広島放送局のひろしまタイムラインのHPでは「1945ひろしまタイムライン」のツイートはすべて、NHK広島放送局の責任で行っています。」(ひろしまタイムラインブログ「6月16日・8月20日のツイートについて」2020年08月24日(月)よりhttps://www.nhk.or.jp/hiroshima/hibaku75/timeline/index.html)と書かれていたため、NHKの公式ツイートと言ってもいいと思います。NHKという立場でのツイートです。NHKはマスコミとしての影響力が強く、広く一般に浸透します。シュンさんのツイートもNHKの発信として強い影響力を持って広がっていく可能性があるのです。
このシュンさんの問題ツイートは新聞やインターネットなどで取り上げられ、実際に抗議を受けながらもNHK広島放送局は検証も説明もせず、9月9日現在もシュンさんのツイートは削除されていません。こうした対応は在日コリアンを攻撃している人たちの正当性の根拠になりかねません。私は想像で書かれた創作のツイートに対して、正当性の根拠になる可能性があることに危惧を感じます。
これまで可能性という表現を多用しましたが、可能性が高くなるだけでも在日コリアンの人々が日常生活の中で不安や苦痛を感じることになるのではないかと思っています。『ヘイト・スピーチとは何か』(師岡康子著)の本文には65年にカナダの連邦議会で設置した「ヘイト・プロパガンダに関する特別委員会」がまとめた報告書の文章が載っていました。そこには「報告書は、ヘイト・プロパガンダ(ヘイト・スピーチと同義)が、現時点で大きな影響がないからといって、人々に偏見が助長される潜在的可能性を無視することは誤りであり、鈍感な多数者や標的にされた敏感なマイノリティ集団の双人に与える心理的・社会的ダメージは測り知れないと指摘した。(114頁)」と書かれています。今回のツイートで在日コリアンの人々に対して心理的・社会的ダメージを与えるかもしれないことが問題だと私は考えるのです。しゅんさんのツイートのコメントにも差別を助長するものではないかという声が多数あがっています。NHKはこれらの声をどうとらえているのでしょうか。
9月2日のしゅんさんの固定されたツイートでは「6月16日と8月20日のツイートは、1945年当時の中学生が見聞きしたことに基づいていますが、現代においてどう受け止められるかについての配慮が不十分でした。発信の再開にあたって、今後は必要に応じて時代背景の注釈をつけるなどの対応を取り、差別を助長していると受け取られないよう努めます。」と書かれていますが、なぜこの内容が偏見や差別の助長につながらないのかその説明はみられず、注釈も追加されていませんでした。
このシュンさんのツイート問題はNHKの番組「これでわかった!世界のいま」の公式ツイッターでの6月7日投稿の抗議デモと全く同じです。攻撃的な黒人をイメージさせていたことと同じで攻撃的な朝鮮人のイメージを想起させているのです。「これでわかった!世界のいま」の公式ツイッターではNHKは謝罪をし、掲載をとりやめたようです。同じことが起こっているシュンさんのツイッターではなぜ謝罪も削除もないのでしょうか。
以上のことから、NHK広島放送局は日常生活への不安をもたらしかねない在日コリアンの人々への謝罪と、問題のツイートを掲載することになった経緯を分析して公開説明し、問題のツイートの削除をすべきだと私も思います。
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