コロナ禍の86ヒロシマ その③
まだまだ収束のゴールが見えないコロナ禍ですが、世界的規模での環境の変化がコロナ感染症の要因の一つにもなっているということを知りました。8月5日、広島市内で開催された「8・6ヒロシマ平和へのつどい2021」では、生物多様性と脱軍備というテーマで講演会が開かれ、そこで「感染症」についての関連性が指摘されました。
2010年名古屋で「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」が開催され、国際条約である「愛知目標」が合意されました。これは国際社会が協力して生物多様性の損失を止めるため2020年までに達成しようと掲げた目標です。この目標達成に従い2030年、2050年へとつなげていく予定でした。しかしコロナウイルス感染症の世界的な流行により2020年10月に中国で開催予定だった締結国会議は延期。今年以降も延期が続き世界的に重要な戦略計画が停滞しているのです。
そもそもなぜ国際的な生物多様性条約が必要なのかというと、生物資源が人間社会にとって必要不可欠なものだからです。ご存じのように近年の生態系の破壊や気候温暖化等により生物の大幅な減少が世界的な規模で深刻化しています。生物資源や遺伝資源は食品や医療品などのバイオテクノロジーやバイオ産業の発展のためになくてはならないため国際的な取り組みが議論されたのです。そして包括的な保全と持続可能な生物資源利用のため1992年に「リオ地球サミット」で国際条約である「生物多様性条約」が採択されました。その後の2010年には日本の名古屋で会議が行われ20項目の愛知目標が定められたのです。
2020年9月、報告書「地球規模生物多様性概況」が発表されました。残念ながら日本は愛知目標20項目のうち完全に達成されたものは一つもありませんでした。部分的には達成されたものもありましたがわずか6項目のみでした。その6項目のうちの1つは「少なくとも陸域及び内陸水域の17%、また沿岸域及び海域の10%の保護地域などにより保全」で、部分的での達成となっています。もし辺野古や上関の海が埋め立て工事などせずに自然のままの姿で保存されれば、日本における沿岸域や海域の保全の範囲が大きく広がるのではないかと予想されています。愛知目標が達成されるかもしれないのです。辺野古や上関の海にはそこにしかいない生物が生息しています。もしこのまま埋め立て工事をすれば、まさに種の絶滅にもつながりかねず、生物多様性が保全されるどころか失われてしまいかねないのです。愛知目標の次の目標では「少なくとも陸域海域の30%を保護区にする」という草案が出されています。現在よりさらに厳しい基準です。脱軍備、脱原発は生物多様性の観点からも重要な意味を持つのです。
2019年の「地球規模生物多様性概況 政策決定者向け要約」には生物多様性の低下が感染症の危機を広げコロナ禍のような事態が起きることへの懸念が記述されていたといいます。人間が行う開墾や生息地の分断、抗生物質の過剰投与が野生動物や家畜、植物に影響を与え、感染症が増える可能性があるというのです。
またIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)の専門家は2020年4月の論文で「これはほんの始まりにすぎない。将来のパンデミックの可能性は非常に大きい。人に感染することが知られているタイプの未確認のウイルス 170 万種が、哺乳類や水鳥にまだ存在していると考えられている。これらのいずれかが次の「疾患 X」になる可能性があり、それらは、COVID-19 よりもさらに破壊的で致命的な可能性がある」と書き、生物多様性の減少が、COVID19 とは異なるウイルス感染の確率を高めている可能性があると指摘しているのです。
講師の方は「2020年に当面の生物多様性の減少を食い止める方策を決めようとしていた重要な年にコロナ事態が発生した事実は重い。生物多様性を減少させ続ける人類文明の在りようを根本的に見直すことが必要だ。社会システム全体を根本的に再編成する必要がある」と強く訴えていました。生物多様性の減少の視点から脱軍備、脱原発を考えていくことは戦争だけではない人類の危機を食い止めることにつながるかもしれません。
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