チェルノブイリ原発事故の被害者は何を体験したのか~『チェルノブイリの祈り 未来の物語』スベトラーナ・アレクシエービッチ著を読んで
ノーベル文学賞を受賞したスベトラーナ・アレクシエービッチ氏の著書『チェルノブイリの祈り 未来の物語』を読みました。受賞当時、書店になかったのですが重版されると聞き、書店に並ぶのを待って購入しました。ページをめくるたび溜息がでて、それが最後まで続きました。衝撃的な内容でした。福島原発事故を起こした日本、日本に住む人は今も渦中です。タイトルの副題“未来の物語”は今日を生きる私たちへの警鐘であり、明日から続く将来への警告と受け止めるべきでしょう。今年のノーベル文学賞がもしスベトラーナ・アレクシエービッチ氏でなかったとしたら、この本が再度書店に並ぶことは難しかったかもしれません。だとしたら、この度のノーベル賞がいかに大きな意義を持ったのか、はかり知れません。私の気持ちとしては内容を抜粋してご紹介したいのですが、やはり手に取って読んでいただくことが最善ですので抜粋はしないことにします。
『チェルノブイリの祈り 未来の物語』はチェルノブイリ原発事故の被害者たちのインタビューが綴られています。事故の時どこにいて何をしたのか、その後どうなったのか、どんな気持ちなのかがモノローグ形式で書かれています。目の前に本人がいるような感じで読んでしまうため、どうすることもできない救いのない状況や持って行き場のない気持ちに、やるせなさとなぜが後から後から湧いてきます。最後まで答えはありません。作者は事故後すぐに汚染地に入り様々な人と会ったといいます。取材は子供からお年寄りまで300人にも及びましたが、発表したのは事故後10年経ってからだったそうです。取材した人数、文章にするまでの歳月がこの著書が完成するまで抱えた葛藤のすさまじさの一端を物語っていると思います。一人一人が体験したことを読者が自分の身に置き換えた時、登場人物の姿は私たちの未来となって浮かび上がってきます。
私はこの本に登場する一人一人が広島や長崎で被爆した人々と重なって仕方がありませんでした。原爆投下直後の情報はプレスコードがあり、新聞は検閲が行われ規制されていた時期がありました。自分や周囲の被害については目の前で見えているので分かっていても、全体の状況として一般の人が把握することは困難でした。自分に起こっていることが何なのか知らされず、分からないまま原爆が落ちたその場所に被爆者が住み、被爆者自らが街の復興を成し遂げました。被爆者の生存者調査は1950年、実態調査が実施されたのは1965年です。それまでの過程で被爆者に何が起こっていたのか、日本政府も把握していないといっていいと思います。あくまでも私の個人的な意見ですが、この原爆被爆者の調査されていない隙間を埋める記憶がチェルノブイリ原発事故被害ではないかと思っています。チェルノブイリ原発事故後に起こった被害者の姿がヒロシマ・ナガサキの被爆者の姿なのではないか。そしてチェルノブイリの被害者の未来が、今生きているヒロシマ・ナガサキの被爆者の姿なのではないかと。『チェルノブイリの祈り 未来の物語』を是非ご一読ください。
| 固定リンク
「本を読んで・映画を見て」カテゴリの記事
- 映画「ひろしま」を見て(2019.09.04)
- 映画「主戦場」を見ました。(2019.06.21)
- 日本の被爆者援護の根幹について書かれた意義深い論文~ 『原爆被害者対策基本問題懇談会(基本懇)についてー何が語られ、「報告」はどのようにつくられたか』田村和之・広島大学名誉教授 (2019.05.30)
- ドキュメンタリー映画「アイたちの学校」を見ました。(2019.05.12)
- ドキュメンタリー映画『ブラジルに生きるヒバクシャ』を見て(2018.10.25)


最近のコメント